海外撮影をする際に必要になってくる「撮影保険」の存在をご存知でしょうか。
アメリカや、いくつかの欧州諸国では、エンターテインメント専門の保険会社から購入した、撮影中に起こりうる事故やトラブルによる訴訟等に対する撮影専門の保険書類の提出を義務付けられます。
中でも、アメリカの撮影保険への要求は特に厳しく、「先方が提示している保険の条件」に見合った保険書類が提出できないと撮影したいロケーションと撮影の契約ができない、借りたい機材が借りられないなどという事態が発生してしまいます。
そんな一癖も二癖もある撮影保険ですが、一体何を保障しているのか、そして、なぜ必要不可欠なのか、詳しくみていきましょう!
1. 撮影保険はなぜ必要?
撮影保険は、アメリカで撮影を決行する際には必ず必要になるもので、欧州のいくつかの国でも要求されることがあります。
しかし、必要不可欠であるが故に、現地コーディネーターがプロセスの一環として書類を処理してしまうことが多く、日本の撮影隊にはあまり知られていないというのも事実です。
ですが、撮影保険を保持しているということは、保険会社と契約をして、プロダクション全体の費用の4-5%前後の保険料を支払っていますので、その分の金額が請求書に載ることになります。
撮影保険以外にも海外撮影では隠れた出費が発生します。そんな海外撮影における特殊な費用をまとめてみましたので、把握しておきたい方はこちらをお読みください。
では、撮影保険とは、一体何で、なぜ必要なのでしょうか。
まず、ここまでの説明を読んで、「先方が提示している保険の条件」や、「要求される」という言い回しに違和感を持った方も多いのではないでしょうか。
通常、保険というのは、自分に何か損害があった場合に備えて、その損害を最小限に抑えるために購入するものですよね。
健康保険でも、車両保険でも、自分が病気をした時に備えて、自分が事故した時に備えて購入します。
もちろん、撮影保険も、「撮影現場でアクシデントが起きた時に備えて」購入するものなのです。
しかし、ここでぜひご理解いただきたいのが、撮影保険はほとんどの場合は、
「撮影したい側」が保障したいものに保険をかけるのではなく、「撮影をさせてあげる側」が保障して欲しい対象に保険をかけている
ということです。
「撮影したい側」というのはもちろん撮影をプロデュースしている制作側、または制作会社のことです。
そして、「撮影をさせてあげる側」とは、それ以外の、撮影現場に集まる全ての人員、クルー、ロケーション、機材、車両、などなど、さらに、撮影現場にたまたま居合わせた第三者も含みます。
上記が一体どういうことなのか、簡単な例を上げて噛み砕いてみましょう。
とあるスタジオを借りて、コマーシャルの1シーンを撮影するとします。
照明クルーの1人が機材を持っていた手を滑らせて、近くを歩いていたスタジオ職員の足に落としてしまいました。
このような事態になった時に、誰のせいだ、誰の責任だと揉め事にならないように、スタジオ側は制作会社と撮影の契約をする際に、予め、
ここで撮影をしたいのなら、スタジオの敷地、所有物、職員に対して何か損害があった時に保障できますという保険を持っていることを証明してください
と、制作会社側に要求し、制作会社側がそれに見合った保険を証明する書類を提出できて初めて、撮影していいですよという契約が結ばれるのです。
2017年の統計によると、ロサンゼルス市内だけでも、一日に平均104.8件の撮影が行われました。
皆さんもご存知の通り、ハリウッド映画やアメリカのドラマには派手な演出が多く、爆発やカーチェイスなども頻繁に見かけます。
ミュージックビデオやコマーシャルですら、ドラマ仕立てで大掛かりなものも少なくありません。
そんな撮影が毎日100箇所というペースで撮影が行われているとなると、現場で物が壊れたり、誰かが怪我をしたりするのは日常茶飯事です。
もちろん、撮影保険で全ての訴訟が未然に防げるわけではありませんが、撮影をする側、させてあげる側の被害を最小限に防ぐことが可能になる大切な存在なのです。
2. 具体的にどんな状況で撮影保険が必要?
ざっくりいえば、撮影をするとなると必ずと言っていいほど必要となりますが、具体的には以下のような状況で撮影保険が必要になってきます。
撮影のロケーションに対する保険
- 市、州、国が所有する土地や不動産での撮影
- 企業などが所有する土地や不動産での撮影
- スタジオやセットなどをレンタルして撮影をする
など
撮影機材に対する保険
- 撮影機材のレンタル
- 撮影に必要な用具や周辺機材などのレンタル
- 劇車やアートなどのレンタル
など
ドローンを使う場合、別で保険が必要です。
ドローンは、近年撮影で頻繁に使用れるようになりましたが、空に飛ばして使用するため、アメリカでは、近くを通過する飛行機や、落下した場合の被害なども考慮して、制作会社が提出する撮影保険とは別に、ドローン使用のため専用の保険が必要です。
この保険は、ドローンオペレーターやが購入する必要がある保険ですので、撮影をお願いする段階で、そのオペレーターがきちんとしたライセンスを所持しているか、専用の保険を所持しているかなどを確認する必要があります。
通常の撮影許可申請と同じように、ロケーションと撮影の契約をする際に提出を要求されます。
3. 撮影保険で一体何が保障されているの?
先述の通り、撮影保険は撮影をさせてあげる側が提示している条件に見合った物を揃える必要があります。
ですので、全国共通のスタンダードというものはなく、ロケーションや機材屋がそれぞれで定めている条件を保険でクリアしないといけません。
共通のスタンダードはありませんが、多くのロケーションや機材屋さんは、ある程度似通った保険の内容を要求してきます。
例
撮影現場で、撮影に関わっていない人や物に危害を加えてしまった時のための保険(撮影に関わっていないスタジオの職員の足に機材を落としてしまった)
撮影クルーに対する保険(撮影中にクルーが怪我をしてしまった)
機材に対する保険(撮影中に借りたカメラを落として壊してしまった)
車両による損害に対する保険(機材車で撮影現場のフェンスを壊してしまった)
などなど
これらの条件に対して、制作会社側は、条件を満たしていますよ、という保険の証明書
通称COI (Certificate Of Insurance)を発行して、先方に提出します。
そして、アメリカの制作会社や現地のコーディネーターは、それらの要求に対応するために、年間契約で保険を購入していたり、そのプロダクションに合った保険を短期で購入したりして対応しています。
しかし、たまに、通常以上の保険を要求してくるロケーションがあり、それらに対しては、相手の要求に見合った保険をその場で購入し、証明書を提出しない限り撮影を決行できないという事態もあります。
多くの場合は、交渉の余地なしなので、どうしてもそこで撮影する必要があるという場合は、涙を飲んで追加分の保険を購入する必要があります。
既存の保険に保証内容を追加するとなると、保険会社に連絡をして、保証内容をと金額を確認してといった作業が発生しますので、撮影許可申請のプロセスに余計に数日かかることも想定されますので、できるだけ時間に余裕を持って申請を始められるといいですね。
撮影許可申請の仕組みやプロセスについてもっと詳しく知りたい方はこちら
4. どうやって撮影保険を発行するの?
さて、現場で色々な起こり得る事故をカバーしてくれる撮影保険ですが、どのようにして発行したら良いのでしょうか。
これは、通常の保険と大差なく、撮影保険を取り扱っている保険屋さんやブローカーを探して購入することになるのですが、ここで一つご注意いただきたいことがあります。
実は、アメリカの撮影保険は、アメリカに法人がある企業しか購入できません。
また、
アメリカのロケーションやレンタル会社は、アメリカで発行された撮影保険しか受け付けません。
ですので、撮影保険を発行する段階では、必ず現地の制作会社やコーディネーターに依頼をしましょう。
通常アメリカの制作会社では、年間を通して契約している保険があるので、
撮影保険を保持しているかどうかという心配はありません。
保険の他に現地コーディネーターに依頼できることをまとめましたので、撮影準備に不安がある方はこちらをどうぞ!
5. まとめ
この記事では、撮影保険について噛み砕いてみました。
言わずと知れた撮影大国、そして何かあったらすぐに起訴してしまう国民性。
そんな中で撮影をスムーズに、トラブルなく進めるために必要不可欠なのが、撮影保険なのです。
避けては通れないけど、謎に包まれていた保険の実態について、ご理解いただけましたでしょうか。
撮影保険や撮影許可についてもっと詳しく知りたい方は、ぜひお問い合わせください。
L.A.拠点の映像制作会社、High Voltage Entertainment, Inc.(略してハイボル)。スタッフが日々交わす会話のキーワードから、「撮影に関する豆知識」「絶景撮影スポット」「必見の食や旅の情報」など、現地のリアルでフレッシュな情報をアレもコレもギュッと。